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臥雲県-ただ一つの森の中-

臥雲県-ただ一つの森の中-

第二十一説 猫無、ラキ編 後編

気が付くと猫無は白い世界の中を飛んでいた。
「やばっ!これって雑念!?」
しばらくラキからの攻撃に備え、肩にグッと力を入れる。だがしばらくしても、攻撃がない。
「もしかして、本当に向こうの世界にきちゃったの!?」
声だけが響く。
「・・・しっかし、何もないとこだなぁ。白しかねぇや。」
しばらく飛び回ってみたが、なにもない。本当に飛んでるかすらわからない。もしかしたらずっと浮いてるだけかもしれない。なにかを思うたびに不安になる。そんな世界だった。
「そうだ、こんな時には“無”だ!」
宙に浮いたまま無の世界に入ろうとする。
「無無無無無・・・ダメだ・・・入れない。どうしよう、これじゃあ、能力が手にはいんない。やっぱりおれなんかじゃ、Mr.Dは倒せないんだ。そういえば、ラキはどうしただろう。もしかして、もう殺されてるんじゃないだろうか。パートナーのおれがいなかったから。おれのせいで・・・・・・・・・・・・・・死にたい。」
猫無には世界のできごと全てが自分のせいに思えてきていた。
「(そうだ!全部お前のせいだ。)」
誰かの声がきこえる。その声の主は1人ではなく、複数。四方八方から声が聞こえる。
「(おまえが悪い!)」「(お前のせいだ!)」
「わかってる・・・おれのせいだ。おれがいるから・・・。」
涙がこぼれる。
「(くう~!)」
「!!幽海!?」
「(猫無。)」
「雪!?どうして・・・。」
「(猫無君~♪)」
「水草先生・・・。」
「(猫無君。)」
「のどか・・・。」
「(黒雨~。)」
「風鳴・・・。」
「(猫無様。)」
「澤開さん・・・。」
「(ラキ君の犬。)」
「母樹・・・。てめ・・・。」
仲間達が猫無を呼んでる。涙は止まった。不安な気持ちも消えていく。
「そうだよ・・・。なに不安になってんだよ。おれにはちゃんと仲間達がいるじゃないか。1人じゃない。」
「(猫無。行くぞ。)」
「ラキ!!大丈夫!おれは弱くても、皆でなら、きっと・・・。」
永遠に白い視界が黒くなっていく。
「おかえり。」
気付くとラキがいた。元いた場所に戻ってきた。
「無の世界にいってきたんだろ?」
「あそこが!?ぜんっぜん無じゃなかったし!不安ばかり押し寄せてきて・・・。」
「それがおまえのありのままの思想。つまり、おまえって人は常に不安と戦ってるってことになる。おまえはそれを受けとめたんだろ?」
「うん、まぁ。」
岩から立ち上がって、首を回したり、腰を鳴らしたりする。
「つまり・・・。」
「うわっ!!」
ラキは猫無にいきなり殴りかかった。猫無は殴りかかってきたラキの拳を自分の手のひらで受けとめた。不思議と痛くない。
「おまえは“無”の能力を手に入れたってことになる。」
「は?なんで?」
ラキの拳を手放す。
「“無”っていうのは、“有”があってこそなんだよ。その“有”を受けとめることによって初めて“無”が生まれる。“無”ってのは現実逃避とかじゃない。現実を受け止めた奴からしか生まれないんだ。ちょっと、勘違いしてただろ?」
「う、うん。」
「さぁ、第二段階だ。」
「うおっ!」
またラキが猫無に殴りかかった。もちろんまた、手のひらで受けとめる。
「さぁ、このあとだ。おまえはどうする?」
「《三日月》があれば、斬る。」
「まぁ、間違っちゃいねぇが。おれがいなかったら?」
「う~ん・・・攻撃を受け続けて、ラキを待つ。」
その答えにラキは溜め息をついた。
「おれを必要としてくれてる、その気持ちはありがてぇんだけどよ。おまえだって強くなったんだ。戦おうぜ?」
「どうやって?」
「それを考えるのが第二段階ってことだ。まぁ、とりあえず、無の世界にいって、疲れただろ。とりあえず、考えながら寝ろ。」
「まだ明るい・・・。」
たしかに、猫無のいうとおり、まだ外は明るかった。
「時間がねぇんだよ!疲れたらとりあえず寝とけ!いつ寝れるかわかんねぇんだから。」
「は~い・・・。寝床は?」
「そこらへんで寝ろ。」
「えぇ~。」
「うるせぇな!寝ろ!!」
ラキは先に少し大きな岩に横になる。
「やだ~!!!」
「・・・お困りですか?」
「!!・・・なんだ村雨か。どうした?」
「いや~、野宿するには道具が足りねぇだろうから、皆にハンモックを、と思ってさ。」
リュックからハンモックを2組取り出した。
「おぉ~。村雨様~。」
猫無は村雨からハンモックを受け取るとすぐにちょうどいい木を探しにいった。
「わりぃな。いろいろ迷惑かけて。」
ラキも受け取る。
「いいんだ。おれ、やることねぇし。じゃ、次、幽海とこいかなきゃなんねぇから、いくわ。」
「おお。じゃあ、3日後。」
「じゃあな。」
「ラキ~!おやすみ~!!」
猫無は一足先にちょうどいい木を見つけて、もうハンモックに寝付こうとしていた。
「あとで、起こすから。ちゃんといい案考えとけよ!」
「・・・。」
猫無、熟睡。
「きいちゃいねぇよ。・・・さて、おれも少し寝るかな。」
ラキもちょうどいい木を探し始めた。
ラキはこんな夢を見た。
いつだかはわからないけど皆たぶん、高校は卒業していて、それぞれの道を歩み始めている。その中、たぶん久々に集まったのだろう。剣の元気~?や、幽海のくう!久々!なんて声が飛んでいた。なぜだかわからないけど、まだ雪も水草先生もいた。もちろんおれも。動物であるはずのおれらもちゃんと自分の道に向かって歩いていて、雪は就職。水草先生はそのまま先生を。おれは・・・おれは?おれはなにしてるんだ?いつの間にかおれがいない。猫無がいう、ラキもいれば、って。おれはいるぞ!ここにいる!なんて叫んだって誰にも届かない。そして、皆は楽しそうな顔をしておれから離れていく。待てよ。おれを置いてくのか!?おい・・・おい!!猫無が振り返り、おれを見下してる顔でいう、さよなら、って。そして、また皆で歩いていく。
「・・・キ、ラキ!ラキ!!」
「いってぇ!!!」
うなされてるラキを見て、猫無が起こそうと体を揺すりながら声をかけるが、まったく起きない。そこで、猫無はハンモックを揺らし、ラキを地面に落として起こすことを考え付いたのだった。そして、その作戦は見事に成功し、ラキが目覚めた。叫びと共に。
「なにすんだよ!!」
「起こした。うなされてたから。悪い夢でも見た?」
「ん?あ、ああ・・・。」
なんだ?なんだったんだ、この夢は。・・・おれはいいのか?このまま・・・。
「どんな夢?」
「それはなぁ・・・。猫無がおれのことが好き~、だなんていって追いかけてくる夢だ。あ~、気持ち悪。」
「げぇ~、おれきも・・・って現実世界のおれはきもくないよ!いたって普通!」
「なに1人で騒いでんだ。」
さてと、ラキがようやく地べたから立ち上がり、服についた砂などをほろう。大きく背伸びし、大きなあくびをすると、あることを思い出した。
「そういや、腹減ったな。コンビニでも探しにいくか。」
「おう!」
2日目の特訓が始まる・・・。


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